日と月
高台付近に対を成すように押された「日」と「月」の印。それが鯉江明さんのサインです。
「日+月=明」というわけです。
気軽に使える雰囲気を持った焼〆の器を探していて出合ったのが鯉江明さんの器でした。素朴だが野暮ではないって実は中々得難いことなのですが、はじめて見た明さんの小鉢は程よく焼け歪みがあって、そこにあっさりと自然釉が振り掛かっていて実に心地良さげな雰囲気が感じられました。そこへ持ってきて上述のサインを発見し、思わず笑みがこぼれました。
初めて明さんの工房を訪問する際、近くのやきもの会館で待ち合わせをしてから、車で先導していただいて工房に向かったのですが、こちらは普通車、あちらは軽トラック、狭くて曲がりくねった道の多い常滑なので、ズンズン進まれると着いていけなくなると思い、出発前に「ゆっくり走ってくださいね」と明さんに一声かけておきました。すると明さんは、本当にゆっくり、田舎道をのんびり走るおじいさんの軽トラックのごとく、ゆっくりゆっくり、走り出しました。さすがに1キロほど走った頃にはそこそこのスピードにはなっていましたが、それでもあくまでもゆっくりと走ってくださって、『明さんって本当に素直な人なんだなぁ』と、その真面目さ加減にとても好感を抱きました。
鯉江明さんのお父上は言わずと知れた現代陶芸の重鎮、鯉江良二さんで、昔お父上が築かれ、長い間使われずに放置されていた、そして今ではかなり風化してしまった登り窯を使って、明さんは焼〆の器を焼いています。窯に隣接された小屋も、見ればかなり老朽化していましたが、その昔若い陶芸家たちがそこで寝泊りして良二さんと一緒に窯を焚いたりしていたそうです。そしてその中には村木雄児さんもいらっしゃったそうです。
明さんの焼き物に使われる土は窯のすぐ横っちょにある土。それを掘ってきて廃材を燃料に焼き締めます。この最もシンプルで原初的な器の生産現場から生まれる明さんの器もとてもシンプルで素直なもの。灰被りだの窯変だのと、とかくやきもの通が薀蓄を垂れたがる薪窯焼成の器ですが、明さんの興味はそういうところにはなさそうです。焼け具合で値段が全然違ったりするのが薪焼きの器ではよくあることですが、明さんの値付けはすべて同じで、しかもとても買いやすい値段。自然釉がいい調子にのっていようが、のっていまいが価格に差をつけません。「自分の友達でも気軽に買える値段で」「それに材料費も全部タダですし」と本当はタダより高いものはないのですが、とても実直な姿勢でやきものに取り組む若者らしいその心意気を歓迎したいと思います。
初納品は湯呑と碗。
素直な器は幅広い用途に使えます。
湯呑はビアカップにしたり、花入れとしてもいい。
4寸ほどのやや深さのある碗は、煮物、和え物はもちろん、3時のおやつを少しだけ入れたり、鍋用の取り鉢にしたり、今の季節だとたけのこご飯などの混ぜご飯系にもどうぞ。
●鯉江明/碗(4寸) \1,400、湯呑 \1,200
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コメント
始めまして。。
関東地区から楽しみに拝見しています。
以前、鯉江さんの花入れがトップを飾られたことがありましたよね。
今、鶴首ではなく、ざっくり活けられて、そんなに大きくない花器を探しています。
鯉江さんの小湯のみを持っているのです。
今後、花器なども入るのかしら?
こちらでは、中々、鯉江さんの作品は拝見できず、普段使いで品の良い花器も結構無く。
また、納品があったらアップよろしくお願いします。
投稿: まお | 2007年4月18日 (水) 13時55分
まおさん、はじめまして。
花器って中々いいのがないですよねぇ。。
私も売り手として努力が足りない点が多々あります。
鯉江明さんはまおさんが望んでいるような花器を作る人だと思います。
お引き合わせできるように、逃さずキャッチするようにしないといけませんね。
いつかぜひご紹介したいです。
投稿: イシザワ | 2007年4月18日 (水) 20時49分